土井卓子先生インタビュー/なぜ必要!?「乳がん検診」
10月は「ピンクリボン月間」。ピンクリボン活動は乳がんの「早期発見・早期診断・早期治療」の大切さを伝えるための世界規模の啓発運動です。
「ピンクリボンかながわ」の代表でもある土井先生は「多くの女性が乳がん検診を“定期的に”受けることが死亡率を下げることになる」と語ります。
今回は紙面で乳がん検診の気になるポイントを聞きました。

ピンクリボンかながわ代表
湘南記念病院乳がんセンター長
医学博士
女性の立場から女性のための乳がん治療、および乳腺分野での治療に従事。乳がん啓発のため、さまざまなメディアの出演や講演活動、執筆も数多くこなしています。
痛くない、怖くない…進化する“その人に合わせた”検診
Q.「乳がん」は遺伝ですか?
A.
大部分は違います。例えば、アンジェリーナ・ジョリーさんは遺伝性乳がん卵巣がん症候群でしたが、20%の患者さんには家族に乳がんの人がいて、(全乳がんの)5%が遺伝だと考えられています。
ちなみに現在日本では、女性の9人に1人が一生涯で1回は乳がんを経験する時代に突入してしまいました。
Q.乳がんになりにくい体質もあるのでしょうか。
A.
体質というより、生活習慣ですね。
閉経したら太らないように食事に気を遣う。週に2、3回以上運動する。お酒を飲み過ぎない、喫煙しないなどです。特に遺伝が気になる若い女性などは、乳がんになりにくい生活習慣を心掛けて欲しいですね。
Q.自己触診を定期的に行なうのは難しいのですが…。
A.
自分で乳房を触ってしこりを探すセルフチェック「自己触診」より、私は「ブレスト・アウェアネス」を推奨しています。
これは乳房を意識する生活習慣のことで、
①自分の乳房の状態を知る、
②乳房の変化に気づく、
③変化に気づいたら医師に相談、
④40歳になったら2年に1回乳がん検査を受ける、
の4つを日常生活の中で行いましょう、というものです。決して難しくないので、今日から実施してみてください。
Q.検診の普及率と種類について教えてください。
A.
2000年に乳がん検診制度が発足してから25年経ちますが、検診受診率は約44%。全国的に見てもほぼ横ばいです。
定期的に乳がん検診に行く人がいる一方で、何らかの理由で乳がん検診に、一度も“行っていない”人が一定数いるということです。
国は、X線を使ったマンモグラフィー検査を推奨していますが、乳房を圧迫する際の痛みを感じる人もいます。一方で、乳房に超音波を当てるエコー検査は、体への負担は少ないものの、診断する医師によって精度にバラツキがあることが課題になっています。
最近では、医師の診断をサポートするために、エコー検査の際にAIを活用しようという動きが広まっています。
その他、非造影MRI検診「ドゥイプス」、乳房PET検診など、さまざまな検診方法が普及しつつあります。
乳がんは、ステージⅠなら99.8%、ステージⅡでも95.6%の5年生存率があります。もし「がん」だったとしても最小限のダメージですむよう、自分にあった検診を“今すぐ”受けてもらいたいと思っています。
Q.乳房再建には医療保険が適用されるのでしょうか。
A.
乳房を取った後、元の形に復元するために行うのが乳房再建手術です。
シリコンで再建する方法のほかに、自分の腹直筋や背中の広背筋などを持ってきて乳房形にする方法もあり、いずれも保険適用されます。見た目も美しく再建できるよう、技術はかなり進歩しています。
Q.土井先生は若い世代への啓発活動を積極的に行なわれているそうですね。
A.
罹患率の減少と検診率の向上には若い女性たちへの啓発活動が必要だと思っています。
大学への講演活動も行っていますが、学生さんが主体的に取り組んでくれる「ブレスト・アウェアネス」が大事だと思っています。地元鎌倉では、今年11月に行なわれる鎌倉女子大学の「みどり祭」で、ピンクリボンフォーラムが開催されます。
このフォーラムでは、全国の大学生にオンラインで参加してもらい、学生さんたちのピンクリボン活動の成果発表などが行なわれます。例えば、被服科の学生さんは、乳房切除した患者さんに向けた下着の開発。栄養科の学生さんは、抗がん剤で味覚が低下した人に向けたメニューの提案。児童心理科の学生さんは、がんに罹患した患者さんが自分の子どもに伝える方法などです。
乳がんは年齢に関係なく罹患する病気です。若い学生さんがピンクリボン活動に参加してもらうことで、母娘で誘い合って検診に来てくれるようになったらいいなと思っています。
「ピンクリボンかながわ」とは
乳がん検診の重要性を知ってもらい、受診率をあげることで、乳がん死亡を減らすことを目的に2006年に発足。
毎年ピンクリボン月間に合わせて、県内各地のスポットをピンク色に染めるライトアップを行なうほか、年間を通じてブース活動やイベント開催など、さまざまな啓発活動を展開しています。
ピンクリボンライトアップ2025 inかながわ

日時ː10/1(水)~31(金)18:00~22:00
ライトアップスポットː
神奈川県庁、マリンタワー、建長寺、テラスモール、小田原城など。
※ライトアップ期間と時間は各施設ごとに異なります。
詳細は下記 ピンクリボンかながわ公式サイトから
https://pinkribbon-kanagawa.jp/archives/category/event-info
取材協力
ピンクリボンかながわ代表
湘南記念病院乳がんセンター長
医学博士
土井卓子(たかこ)先生
☎0467-32-3456(湘南記念病院代表電話)
公開日2025/09/24